今回特に選曲の意味を自分なりに考え抜いたので、聴いてくださった方に伝えることができたのではないかと思います。同じ空間で音楽を私たちと共有してくださった皆様、本当にありがとうございました。
曲について考えていく過程を文章にまとめて公開してみたのも、私にとっては初めての試みでした。頭の中では普段から考えているつもりでしたが、文章にまとめて公開するとやはり自分の意識は変わります。お読みいただいた方、ありがとうございました。
マルシェ弦楽四重奏団では、来年もアウトリーチ、コンサートなどの予定が継続してございます。今後も私たちの活動に関心を寄せていただけると嬉しいです。



この曲は熊本県球磨郡五木村に伝わる民謡です。五木村は熊本県の南部の内陸の山間部にある、平家の落人伝説のある小さな村。この歌は子守をする少女が、自分の不幸な境遇などを自ら慰めるために歌った歌です。かつて小作人の少女たちは、家が貧しく、「口減らし」のために奉公に出されることが多くありました。

哀愁を帯びた物悲しいメロディーです。私は聴きながらガーシュウィンのオペラ「ポーギーとベス」より「サマータイム」を思い出しました。貧しいアフリカ系アメリカ人の主人公が赤ん坊をあやしながら歌うブルースです。ブルースも成り立ちを考えるとアフリカ系アメリカ人の「民謡」とも言えるジャンルですから、日々の暮らしに心情を歌詞にこめて歌っていたという共通点があるのかもしれません。
コンサートでは幸松肇氏が編曲した「弦楽四重奏のための日本民謡集」より演奏します。これまでにマルシェ弦楽四重奏団ではこの民謡曲集から「ソーラン節」「茶っきり節」「鹿児島おはら節」などいくつかをコンサートやアウトリーチで演奏してきました。日本土着の民謡の響きそのままというよりは、西洋の楽器、西洋の響きも活かした新しいアレンジになっていると感じます。
この曲は、ロシアの作曲家チャイコフスキー(1840-1893)によって1871年に作曲された「弦楽四重奏曲第1番ニ長調作品11」の第2楽章です。美しい旋律が大変有名で、いろいろな楽器に編曲されたり、今回のコンサートのように単独で演奏されることも多いです。

チャイコフスキーは若い頃に民謡の採譜にも取り組み、その成果は「50のロシア民謡曲集」(1869年:弦楽四重奏曲第1番の作曲時期に近い)といった形でまとめられました。そうした活動の影響でしょうか、初期のチャイコフスキーの作風は民族的な要素を採り入れた作品が多かったと言われています。 弦楽四重奏曲第1番は、彼の創り出す豊かな旋律と情感溢れる表現力が際立っており、ロシアの伝統的な音楽と西洋のクラシック音楽を融合させた作品として評価されています。
第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」も民謡を元にしていると言われていますが、具体的にどの民謡なのかについては諸説あるようです。 その一つが、冒頭部分のテーマがウクライナのカメンカで聴いた民謡を元にしているのではないか、というものです。
カメンカはチャイコフスキーの妹の嫁ぎ先で、1870年代にはチャイコフスキーが頻繁に訪れていたということです。
今回の記事でご紹介した2曲はどちらも民謡が元になっており、素朴ながら胸に迫る旋律が印象的です。コンサートでは、人々の心の中に大切に伝わってきた「うた」を弦楽四重奏の響きでお楽しみください。
【2025/10/13追記】
全4回にわたって全てのプログラムを眺めてみますと、パーセルはイギリスの、五木の子守唄は日本の、チャイコフスキーはスラブの、リゲティはハンガリーの、シューベルトは南ドイツ・オーストリアの、”それぞれの文化・伝統・メロディー” が豊かに表現された曲ばかりです。長い歴史の中で人々によって受け継がれてきたもの、それを弦楽四重奏曲という形で残してくれた作曲家のそれぞれの「歌」がお聴きいただく皆様の心に届きますようにと思って演奏しました。

🎵コンサートの詳細は以下のページをご覧ください🎵
来月に向けてリハーサルにも力が入ってまいりました。リハーサルの音源から、ちらっとパーセルのファンタジアがお聴きいただけます。
ヘンリー・パーセル(1659年 -1695年)はイギリス生まれ、ウェストミンスター寺院のオルガニスト、王室楽団の作曲家として活躍しました。伝統の上に新様式を盛り込み、英国音楽に新風を吹き込んだバロック時代の作曲家です。
16世紀から17世紀初頭にかけて、イギリスではヴィオールの合奏がもてはやされ、同時代に活躍したイギリスの作曲家たちはこのレパートリーのための音楽を残しました。パーセルも3声から7声まで多彩なヴィオールの作品を作曲しています。
「4声のファンタジア」とある通り、後にハイドンによってヴァイオリン2本、ヴィオラ、チェロによる弦楽四重奏のスタイルが確立される以前の曲です。元々はヴィオール属(ヴィオラ・ダ・ガンバ)のために書かれました。

こういう楽器ですね。厳密には細かい違いがあるためヴァイオリン属の先祖とは言えないようです。
弦楽四重奏という形式が確立された後の曲より、4つの楽器の役割分担が明確ではなく、一つのものを自由に4人で紡ぎ出すような面白さを感じます。10/12のコンサートでは、この曲から演奏をスタートし、いろいろな「うた」が広がっていきます。
2025/10/12(日) 開場: 13:30 / 開演: 14:00
杉並公会堂 小ホール
パーセル:4声のファンタジア ト長調 Z.742
幸松肇:弦楽四重奏のための4つの日本民謡より「五木の子守唄」
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番 ニ長調より「アンダンテ・カンタービレ」
リゲティ:弦楽四重奏曲第1番「夜の変容」
シューベルト:弦楽四重奏曲第15番 ト長調 D887
チケット購入はこちらから(teket)、またはこのサイトのContactページからお問い合わせください。

マルシェ弦楽四重奏団による「響きあう・うた」をテーマにした演奏会。
「歌、メロディー」に重きを置き、日本やヨーロッパの様々な国や時代の弦楽四重奏作品をお話をまじえながらたどる。弦楽四重奏は4つの弦楽器でひとつの音楽を作る、シンプルな演奏形態である。誰もが持っている楽器は声であり、歌は人間にとって身近なもの。作曲家が作品に込めた歌を感じていただける企画。
パーセルのファンタジア、五木の子守唄、アンダンテカンタービレは、どれも各国の古典的な作品であり、民謡が主題であったりと作品にその土地らしさがあらわれている。色々な歌(民謡)に親しんだ後に、リゲティの現代的な響きや色々な感情の変化に触れる。この作品がリゲティの初期・若い年代に作られた作品であることを考え、美しく歌うアプローチで表現したい。
プログラムの後半、たくさんの歌曲を残し、歌の分野を芸術作品にまで高めたシューベルトの大作、弦楽四重奏曲第15番を演奏する。シューベルトは「冬の旅」「美しい水車屋の娘」といった連作歌曲で、各曲に文学的・音楽的な関連性を持たせ、作品全体で統一的な世界を作り出した。それと同じように、この長大な弦楽四重奏曲の中に物語が描かれており、シューベルトが描いた人間の心の動きに誰もが共感できる部分があるだろう。

まだまだ暑い日が続いていますが、少しずつこちらの公演の日が近づいてきます。
プログラムの企画意図については、マルシェ公式サイト、チケット販売サイト、YouTubeなどにも投稿しています。ご一読いただけると嬉しいです。
弦楽四重奏のための曲は、特別なクラシック音楽愛好家でなければなかなか知らないものが多いのではないでしょうか。プログラムの曲目だけでパッと人目を惹きつけるのはなかなか難しいジャンルですが、コンサートで一度聴いていただけると、その後何回も聴いていただけるようになることも多いです。4人という小さくて密接なやり取りをすぐ間近で聴くのは、とても印象的で心に響く体験です。感情がダイレクトに伝わってくる気がします。
これからリハーサルで詰めていき、YouTubeなどでも少しお聴きいただけるようにしようかなと計画中ですので、こちらも覗いてみてください。ぜひコンサートでもお待ちしています。
曲の理解をより深めたいと思って調べたり考えたりしたことを少しずつこちらに書いていこうと思います。今回は「響きあう・うた」というテーマを掲げていますので、プログラムにある一見バラバラな曲たちがどのようにテーマと関わり合っているのかを念頭に置きながら書いていきます。こちらのブログを続けてお読みいただけると、これらの曲をまとめて聴く意味を感じていただけるのではないでしょうか。上に挙げた公式サイトのようなところは正確さに拘りどうしても無難な内容になりがちですので、ここには全くの私の個人的な考えを綴りたいと思います。

この弦楽四重奏曲第15番は私が長年演奏したいと思っていた曲で、プログラムに入れるチャンスをずっと窺っていました。
シューベルト(1797-1828)はオーストリアの作曲家で、オペラ、ミサ曲、交響曲、室内楽、ピアノ曲といった幅広い作品を残しました。「魔王」「冬の旅」をはじめ600曲を超える歌曲を作り、「歌曲の王」として名高い作曲家です。
この曲は生涯に作曲した15曲の弦楽四重奏曲の最後の作品で、亡くなる2年前、最晩年の作品です。
過去に弦楽五重奏曲なども演奏したことがありますが、この人の曲はとにかく長い!同じリズムを延々と繰り返しながら、その中にあっと驚く独創的な転調を次々に積み重ねていき、それが積み重なった先にはとんでもない壮大な景色が見える・・・それがこの曲の一番の魅力だと思います。振り返ってみると延々とモチーフが繰り返される長さは、この景色を見るためには必要なものであるのかもしれません。途中の楽章には、牧歌的なところもあったり、歌曲を思わせるようなドラマチックな部分があったりもします。
作曲家は歴史的に古くは王侯貴族に雇われていた身分でしたから、王の要望に沿って宮廷で使われる音楽をたくさん書いていました。シューベルトの弦楽四重奏曲はそのようなパトロンの依頼で作曲されたのではなく、個人的な楽しみのためとか(シューベルトはヴィオラを弾きました)、純粋に音楽的な欲求によって作曲されています。個人的な感情や思いの丈を曲に発散させているように感じられるのです。スコアを見て複雑な和声の変化を勉強しながらも、次第に身近に感じて自分の人生や日々の生活とただただ重ね合わせて弾く・・・そんな気持ちになることもあります。きっとお聴きいただく方にも難しい解説は横に置いておいて、ただこの曲も世界に浸っていただけるのではないでしょうか。
コンサートの詳細はこちらのページをご覧ください。