10月マルシェ弦楽四重奏団主催公演にむけて<4・五木の子守唄、アンダンテカンタービレ>
五木の子守唄
この曲は熊本県球磨郡五木村に伝わる民謡です。五木村は熊本県の南部の内陸の山間部にある、平家の落人伝説のある小さな村。この歌は子守をする少女が、自分の不幸な境遇などを自ら慰めるために歌った歌です。かつて小作人の少女たちは、家が貧しく、「口減らし」のために奉公に出されることが多くありました。

哀愁を帯びた物悲しいメロディーです。私は聴きながらガーシュウィンのオペラ「ポーギーとベス」より「サマータイム」を思い出しました。貧しいアフリカ系アメリカ人の主人公が赤ん坊をあやしながら歌うブルースです。ブルースも成り立ちを考えるとアフリカ系アメリカ人の「民謡」とも言えるジャンルですから、日々の暮らしに心情を歌詞にこめて歌っていたという共通点があるのかもしれません。
コンサートでは幸松肇氏が編曲した「弦楽四重奏のための日本民謡集」より演奏します。これまでにマルシェ弦楽四重奏団ではこの民謡曲集から「ソーラン節」「茶っきり節」「鹿児島おはら節」などいくつかをコンサートやアウトリーチで演奏してきました。日本土着の民謡の響きそのままというよりは、西洋の楽器、西洋の響きも活かした新しいアレンジになっていると感じます。
アンダンテ・カンタービレ
この曲は、ロシアの作曲家チャイコフスキー(1840-1893)によって1871年に作曲された「弦楽四重奏曲第1番ニ長調作品11」の第2楽章です。美しい旋律が大変有名で、いろいろな楽器に編曲されたり、今回のコンサートのように単独で演奏されることも多いです。

チャイコフスキーは若い頃に民謡の採譜にも取り組み、その成果は「50のロシア民謡曲集」(1869年:弦楽四重奏曲第1番の作曲時期に近い)といった形でまとめられました。そうした活動の影響でしょうか、初期のチャイコフスキーの作風は民族的な要素を採り入れた作品が多かったと言われています。 弦楽四重奏曲第1番は、彼の創り出す豊かな旋律と情感溢れる表現力が際立っており、ロシアの伝統的な音楽と西洋のクラシック音楽を融合させた作品として評価されています。
第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」も民謡を元にしていると言われていますが、具体的にどの民謡なのかについては諸説あるようです。 その一つが、冒頭部分のテーマがウクライナのカメンカで聴いた民謡を元にしているのではないか、というものです。
カメンカはチャイコフスキーの妹の嫁ぎ先で、1870年代にはチャイコフスキーが頻繁に訪れていたということです。
今回の記事でご紹介した2曲はどちらも民謡が元になっており、素朴ながら胸に迫る旋律が印象的です。コンサートでは、人々の心の中に大切に伝わってきた「うた」を弦楽四重奏の響きでお楽しみください。
【2025/10/13追記】
全4回にわたって全てのプログラムを眺めてみますと、パーセルはイギリスの、五木の子守唄は日本の、チャイコフスキーはスラブの、リゲティはハンガリーの、シューベルトは南ドイツ・オーストリアの、”それぞれの文化・伝統・メロディー” が豊かに表現された曲ばかりです。長い歴史の中で人々によって受け継がれてきたもの、それを弦楽四重奏曲という形で残してくれた作曲家のそれぞれの「歌」がお聴きいただく皆様の心に届きますようにと思って演奏しました。

🎵コンサートの詳細は以下のページをご覧ください🎵
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